こんにちは、山北です。今回は「モーラー奏法って何?」という疑問にお答えします。

モーラー奏法の歴史

モーラー奏法の歴史はとても古く、1920年代にまで遡ります。名前の由来は1925年にアメリカで出版された「モーラー・ブック」。アメリカ南北戦争の戦場で行われていたスネアドラムの奏法を、サンフォード・モーラーという人がまとめて出版したものになります。

 

当時はまだ電気を用いた通信手段がなく、戦場の最前線では、情報伝達のためにスネアドラムが用いられていました。砲弾が飛び交う中、食料補給や弾薬の残量といった生死に関わる重要な情報を伝えるために、大音量で長時間・・・生半可なスタミナでは務まらなかったことでしょう。

陸軍の音楽隊では、そうした極限状態において身体を合理的に使う奏法が教えられていたのですね。

モーラー奏法の特徴

モーラー奏法の特徴は、スティックを小指で持ち、親指・人差し指を解放すること。これが解剖学的に正しく、合理的であるとの記述があります。

「アップテンポでは力を抜くこと」という記述もあります。

実はこれ、日本のドラム教室で長年主流だった「人差し指・親指で支点をつくり、握力で握り込んで音を出す」という奏法とは真逆なんですね。歴が長い人ほど習得に苦労するのは、これが理由になっています。

 

モーラー奏法のしくみ

モーラー奏法の原動力は身体の「重み」。屈伸運動ではなく回転運動によって重みを移動させ、力を出す仕組みです。

  • スティックを上げる力
  • スティックを下ろす力

これらの両方を、肩や手首の回転を主体とした「ムチような動き=ウイップ・モーション」によって生み出していくわけです。直線的な屈伸運動では実現できない「脱力」と「パワー」そして「音色のバリエーション」を実現できるメリットがあります。

ただ大きな音を出すためだけでなく、音楽表現のために活用できる優れた奏法になります。

モーラー奏法の継承者

サンフォード・モーラーに直接習ったと発言しているドラマーの一人に、ジム・チェイピンがいます。教則「スピード・パワー・コントロール&エンジュアランス」には多くのトップドラマーがコメントを寄せていることから、現代ドラミングに大きな影響を与えた人であると言えます。

テイク5の名演で知られる名手ジョー・モレロも、モーラーの直弟子であったことが知られています。

そして何といっても、モーラー奏法を語る上で外せないのがバディ・リッチ。サンフォード・モーラー本人との関わりは不明ですが、アーミー・スタイルを消化・洗練し、ショーアップされた圧倒的なパフォーマンスで一時代を築いた達人です。

一流ドラマー達のメンター、フレディ・グルーバー

ところで、僕が「モーラー奏法」という言葉を知ったのは1995年頃。デイヴ・ウェックルの教則「ナチュラル・エヴォリューション」がきっかけでした。当時すでにトップドラマーであったデイヴがスティックの持ち方をイチから見直し、奏法改革を成し遂げたというエピソードには衝撃を受けたものです。

デイヴの教則に登場した先生がフレディ・グルーバー。フレディの弟子にはニール・パート、スティーヴ・スミス、ヴィニー・カリウタといった錚々たるトップドラマーたちが肩を並べています。まさにドラム教育界のキー・パーソンですね。

フレディはサンフォード・モーラーの直系ではいようですが、バディ・リッチと同世代で、ルームメイトだったというエピソードがあります。バディリッチの高度なテクニックを世に広めた、影の立役者だと言えるかもしれません。

現代的なモーラー奏法の教材としては、ジョジョ・メイヤーのDVDシークレット・ウェポン・フォー・ザ・モダンドラマー」も外せません。こちらは2010年頃の教材ですね。

モーラー奏法の現在

このようにドラム教育の系譜をたどると、アメリカ音楽の歴史を垣間見ることができます。僕たちが影響を受けているもののルーツを知ることは、演奏に確信を与えてくれますね。

一方、別のところでブラックミュージックの歴史もあります。ルーディメンツなど軍隊を由来としたスタイルとは別に、アフリカやヨーロッパ由来のスタイルも存在します。ゴスペル系も含め、現在は多種多様なルーツをもつスタイルが融合している時代だと思います。

多様な文化との出会いによって、モーラー奏法の可能性は今も広がり続けています。