モーラー奏法の歴史

モーラー奏法というと「新しい、特別な奏法」のように思われる方もいるかもしれませんが、実は新しくも特別でもなく、とても古くからある奏法です。歴史を簡単にまとめておきますね。

モーラーブック

1925年、アメリカでサンフォード・モーラーという人が「モーラーブック」という本を発表しました。これがモーラー奏法が世に出た最初です。90年以上も前ですね。

モーラーブックの表紙

サンフォード・モーラー

モーラーさんは、自分で奏法を編み出したわけではありません。古くからある奏法をまとめて本にしたのです。

モーラーブックの前書きに、モーラー奏法のルーツについて記載があります。

1862年、ジョージ・B・ブルースという人が陸軍のためにスネアの奏法を教える学校を開いた。モーラーは、その奏法が国や世代を超えてあらゆるドラミングの基礎になっていると確信していた。

1862年といえば南北戦争(1861~1865)の最中で、戦地で命令やら合図やらの信号を出すためにスネアドラムが使われていたようです。こうした信号のための奏法を、陸軍の学校で教えていたのでしょう。

モーラーブックに載っている練習曲の中には「朝食」や「疲労」など、いかにも戦場らしいタイトルのものが多くありますが、「弾切れ」や「負傷」など、間違えて伝わると即負け(=死)につながる緊迫した場面もあったはずです。

前線で砲弾の飛び交う中、騒音に埋もれない大きな音で長時間、確実に聴こえる音を出し続ける技術。そうした技術を後進に受け継ぐために、モーラーさんが書籍化したわけですね。

モーラーの弟子たち

モーラーは、自分がまとめた奏法を多くのドラマーに伝えました。

ジーン・クルーパ、ジム・チェイピン、ジョー・モレロなどは、モーラーに直接習ったことが知られており、アメリカの一流ドラマーの多くが彼らの影響を受けています。

ビッグバンド・ジャズのスタープレイヤーであったジーンクルーパのスタイルは、ルイ・ベルソンやバディ・リッチに受け継がれます。派手な動きでショーアップされたドラムソロは、モーラー奏法の特徴を「見せる」ことに活かしたものと言えるでしょう。

バディ・リッチの奏法はフレディ・グルーバーに受け継がれ、「フレディ・グルーバーシステム」として後世の一流ドラマーの多くが学んだと言われています。

ジム・チェイピン(1919~2009)の教則DVDは、伝統的なモーラー奏法の最高の教材です。デイヴ・ウェックル、トーマス・ラング、ドン・フェミュラーロなど、彼に師事した一流ドラマーは数え切れません。

「Take Five」のドラムソロが有名なジョー・モレロ(1928~2011)も教則DVDが出ていますが、アーミースタイルの影響が感じられるジム・チェイピンとは異なり、よりジャズ的なスタイルのレクチャーが見られます。

モーラー奏法は世代を超え、現在に至るまで多くのドラマーに影響を与え続けています。